厚生労働省が4月に実施した診療報酬改定において、訪問診療の料金が大幅に引き下げられたため、訪問診療から撤退する医療機関が相次ぎ、これらを利用している介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の事業者から悲鳴が上がっています。

引き下げの対象となる具体的な事項としては、ある患者を月2回以上定期的に診察した場合に受け取ることができる「医学総合管理料」があげられます。
この「医学総合管理料」については、在宅患者を手厚く診る「かかりつけ医」を増やす目的で、患者一人当たり5万3000円と高めの料金設定をしていましたが、今回の改定で1万5000円に見直され、72%という大幅な減額となりました。

医学総合管理料/月 3月まで 4月から 減少率
サービス付き高齢者向け住宅 5万3000円 1万5000円 72%
介護付き有料老人ホーム 3万9000円 1万1700円 70%

この減額によって、医師の人件費が賄えないなどの理由で、それまで訪問診療を請け負っていた医療機関が撤退する事例が続出し、介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では入居者の健康管理面で深刻な問題を抱えることとなっています。

たとえ、代わりの訪問診療依頼先を見つけられたとしても、その医療機関が今後も訪問診療サービスを続けるかどうかは不透明な状態です。
調査によると、訪問診療から撤退した医療機関が1割、規模を縮小する医療機関が3~4割、残りの5割についても、当面は続けるが、このままの状態が続けばいずれ撤退せざるをえない、という見方をしているとのことです。

入居している施設で訪問診療が受けられなくなった場合、自ら通院できない入居者は、別の施設を探すか、診療のために救急車を呼ぶしかないという状況に追い込まれています。

厚生労働省は、高齢者施設で一人当たり数分の診療時間で多数の患者を診て多額の医療費を請求する「訪問診療専門クリニック」など不適切と思われる事例への対策として実施したと説明しています。
月2回の訪問診療を入居の条件としたサービス付き高齢者向け住宅や、本人の希望に関係なく90%以上の入居者に訪問診療を受けさせた老人ホームなど、全国20ヶ所でこうした不適切な事例が確認されたとのことです。
こうした制度の乱用ともいうべき事例を排除するために行った施策が、この度は全くの裏目に出た形となっています。

厚生労働省は医療費抑制政策の一環として、集合住宅の形で必要に応じて医療や介護を受けられる施設を増やしていくという流れを作り、在宅医療・介護にシフトしていこうとしています。
これらを整備するための補助金制度も設け、民間企業の参入も順調に増加していました。

ところが、ここに来て、これまでの在宅医療の推進を妨げるような施策を打ち出したことが大きな波紋を呼んでいます。
まともな診療まで一律に規制するのは非常に乱暴な施策である、という意見も多い上、在宅医療の推進に逆行するのではないか、との意見も多く寄せられています。

厚生労働省は、訪問診療の撤退があれば医師会が医師を紹介する仕組みを作るとしていますが、医師だけに限らず、医師会自体が消極的な場合もあり、この仕組みが機能するかどうかも不透明です。
医療費削減は究極の課題には違いないのですが、こうした付け焼刃的な施策では現場を混乱させるだけなので、今後の厚労省の対応が注目されています。